服を売るのではなく「循環」させるブランド『energy closet(エナクロ)』代表の沙友里さん。理工学部でまちづくりを学んだ理系女子が、2021年、新たな拠点に選んだのは市原市の加茂地区でした。 縁もゆかりもない里山で見つけた、驚くほど温かい人の繋がりと「地産地消」の美学。古民家アトリエで服と向き合う彼女の信念と、この土地で描く未来について伺いました。 取材日 2026年1月4日/文 Akari Tada
energy closet
年齢 29歳
移住時期 2021年11月
移住エリア 加茂地区


始まりは、絶望と「3万円」からの起業
佐倉市出身で理科とファッションが好きだった沙友里さん。
「大学は理工学部の『まちづくり工学科』なんです。服の仕事を目指していたわけじゃなく、卒業論文で五井に昔あった商店街を調査したのが、この街との最初の接点でした」
大学3年生、いざ就活を始めると壁にぶつかります。入りたい企業が見つからない。面接では「君は一人でやったほうがいい」と言われる始末。
「あ、絶望……と思いました(笑)。私、社会に入れないかもって。」
3着持っていき、3着持ち帰る。「服の循環」の仕組み
沙友里さんが展開する『CLOSET to CLOSET(クロクロ)』は、自分の服を3着持っていくと、店内の好きな服を3着持ち帰れるというスリフトショップです。


「もともと小柄で、周りから服をもらって着ることが多かったんです。もらって『めっちゃいいのにな』って思うことが多くて。『みんなが不要なものって、実は価値があると思うんだ』ってひたすら喋り続けました。」
じわじわ共感が集まり、引っ越す人から服を譲り受けたり、古着屋の友達が在庫をくれたり。自分で電車で取りに行き、リュックにパンパンに詰めてひたすら自宅に積み上げる日々。
「最初は本当にお金がなく、手元の3万円からスタート。自分で服を背負って電車で運んでポップアップをやる。それがエナクロの原点でした。」
クロクロを続け、集まった服をリメイクして販売する『upHAND』というアップサイクルラインも、3年ほどの試行錯誤を経て形になりました。

「リメイクはクオリティの担保が本当に難しくて。ちゃんとリリースできるレベルにするのに苦戦しました。でも、ハンドメイドにこだわりたくて。3年くらいラグができたものの、なんとか。」
直感で決めた市原市への移住。「何も知らない」からこそ楽しめた
高円寺を離れ、シェアハウスを運営しながら渋谷を拠点に活動していた沙友里さん。事業が大きくなるにつれ、制作に没頭できる場所を探していた時、紹介されたのが、加茂地区・田淵の物件でした。

「田舎で暮らしたかったわけじゃないんです。ただ、場所があるなら行ってみようと、家を2軒くらい見て、即決。車も買ったので『別に駅が近くなくてもいいか』って、あんまり考えずに1〜2ヶ月で引っ越しました。何も知らずに住み始めたら、もう、びっくりすることだらけ(笑)」
東京で生活していた彼女にとって、里山での暮らしは未知の連続でした。
「草刈りって年一じゃないんだ!とか、冬は信じられないくらい寒い。車がぬかるみにはまったり、バッテリーが上がったり。でも、そのたびに絶対に周囲が助けてくれて。そんな環境に出会えたのは運が良かったなと思います」

拠点はアトリエ・倉庫であり、生活の場。雨漏りを直し、大量の服を掛けたり、洗濯機をフル稼働できるよう耐久性を補強し、床や壁を自分で塗り直す。家具も、近所の人からもらったものを修理して使う。「ないものは自分で作る、あるものを生かす」という沙友里さんのスタイルは、里山暮らしに自然とフィットしていきました。

「市原の人は、不思議なことを面白がってくれる」
若い女性が一人で移住し、服のリメイクを始める。地域の方々の反応は驚くほど温かいものでした。
「引っ越す前から『東京から古着屋の女の子が来るんだよ』って丁寧に根回しをしてくれていたんです。だから、あの子誰?じゃなくて『ああ、聞いてた子ね』って。東京から来たから田舎のことわかんないだろうし、って困ってたら教えてくれる。孫みたいに扱ってくれる本当に平和な環境に恵まれました」
さらに印象的だったのは、事業への反応。 「東京では『意味わかんない』と言われることも多かったんです。でも市原に来たら、みんな『珍しいね』『見たことないね』ってフラットに面白がってくれる。頭ごなしに否定されない。それは私にとって、すごくやりやすかったし、ここに長くいたいと思えた理由かもしれません」

服の地産地消。この土地で「生み出す人」を増やしたい
沙友里さんが今、大切にしているのは「地産地消」。
「古着は輸入業のイメージがあるかもしれないけれど、私は同じ文化圏で回すことに美学を感じるんです。市原で採れた木で家が建つとか、住んでいる場所の水がおいしく飲めるとか。そういう生活圏の中で全てが循環にする形こだわりたい」
エナクロのこれからについて聞くと、沙友里さんは「もっと服を作りたい」と目を輝かせます。
「今まで外向けのイベントや人集めに追われていたのが、やっと制作に集中できる時間ができてきました。リメイクが売れるようになり、アトリエも整った。もっと服に触れる時間を増やしていきたいです」

また、移住を検討している方に向けてこう語ります。
「新しいものや自分のやりたいことを持ってくることを、市原はポジティブに受け入れてくれる場所。自由な気持ちで来ていい。やりたいことをちゃんと発信すれば、必ず届く。この土地で何かを生み出す人がもっと増えたら嬉しいですね。農家でも、林業でももっと盛んになったらいいなと思っています。」
空き家と古物と古着を扱う3社共同のプロジェクト『POST』は地域資源の循環拠点となっています。「あとジャンルで言えば、本!古本がほしい!図書館でもいいし、そんな人がいたら」と沙友里さんは笑います。
自分に合った「循環」を自らの手で作り上げた沙友里さん。彼女が紡ぐ服の一着一着が、南市原の豊かな風土に溶け込み、また新しい誰かへと繋がれていきます。
【HP】energy closet(エナクロ )
【Instagram】energy closet(エナクロ )(@__eneclo)