家族での移住を考えたとき、いちばん気になるのは「子どもが新しい環境に馴染めるかどうか」。市原市の南部には、そんな不安を安心に変えてくれる学びの場があります。
高滝・里見・冨山・白鳥の4つの小学校を統合して生まれた「加茂小学校」、そして小中一貫教育校として開設された「加茂学園」。1年生から9年生までが同じ校舎で学び、地域ぐるみで子どもたちを育てる“オール加茂”の取り組みが、ここにはあります。
少人数だからこそできる丁寧な教育、そして世界を見据えたグローバルな学び──。加茂学園での学校生活について、村松邦生校長にお話を伺いました。
取材日 2025.06.23/文 Akari Tada
住所 | 〒290-0541 千葉県市原市平野123 |
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加茂学園は、かつてこの地域にあった高滝小・里見小・富山小・白鳥小の4校が統合され、2012年に開校した小中一貫教育校です。学区は市原市の南部に広がり、その面積は市全体のおよそ3分の1にも及ぶ広さ。自然豊かでのどかな地域で、元気よく子どもたちが学校生活を送っています。
通学には、小湊鐵道やバス、さらに市が運行するスクールバスやスクールタクシーが利用されており、すべての児童・生徒に市が交通手段を確保しています。
昨年、大雨による土砂崩れで主要道路が通れなくなった際も、市がすぐに対応し、遠回りしてでも子どもたちを安全に送り届ける体制がとられるなど、行政と学校の連携が、地域全体で子どもの学びを支える土台となっています。
加茂学園は、小中一貫の9年制。
「小学生」「中学生」といった分け方ではなく、「前期(1~4年)」「中期(5~7年)」「後期(8・9年)」の3つのブロックに分け、段階に応じた成長を支えます。
同じ校舎で1年生から9年生までが過ごす日々のなかで、学年を越えた自然な関わりがたくさん生まれるのが最大の特徴です。体育祭のチーム分けや学校行事、掃除や日常のあいさつまで、縦のつながりがごく自然なかたちで根づいています。
思春期の時期も、同学年だけで張り合うことが少ないためか、感情のぶつかり合いが比較的起こりにくいと先生方も感じるそう。誰かを目標にしたり、誰かに手を差しのべたり。そうやって学びあう姿が、日常の風景になっています。
加茂学園は1学年約20人以下の小規模校。「一人ひとりにちゃんと目が届く」学校生活の環境がそこにあります。
「○年生だから」「男の子だから」「中学生なんだから」——そうした枠をはずして、「その子は今どう過ごしているか」を大事にする姿勢が、学校全体に共通しています。
小さな学校だからこそできる丁寧な関わり。それは、比べられたり、急かされたりしないからこそ、子どもたちが自然と「自分」を大切にできるようになる下地にもなっています。
加茂学園では、文部科学省からの教育課程特例校として「GC(グローバル・コミュニケーション)科」という特別な教育課程も実施されています。週1回、常駐する3名のALT(外国語指導助手)とともに、「英語を学ぶ」ではなく、「英語で学ぶ」ことを目指す授業です。
毎月第3週には「イングリッシュウィーク」として、積極的に英語を使って過ごす取り組みも行われています。
この活動の目的は、「英語を話せるようにする」ことよりも、「ことばを通して人とつながる体験を重ねること」。表現する喜び、伝わる楽しさを実感するなかで、子どもたちは言語だけでなく、コミュニケーションそのものの価値を感じていきます。
子どもたちが育つうえで欠かせないのが、「地域とのつながり」です。
地元の給食調理場や助産院の方々を招いての授業、地域での防災訓練や交通安全教室など、地域の大人と子どもが関わる機会が多く設けられています。
一人ひとりの子どもたちが、それぞれに合った形で学校生活を送っています。どんな児童も「ここにいていい」と思えるように、先生だけでなく地域の人たちも関わっている——それが加茂学園のスタイルです。
このように、学校・家庭・地域が三位一体で子どもたちを育てていく加茂学園では、“オール加茂”という言葉が自然と合言葉になっているのも納得です。
9年間という長い時間のなかで、子どもたちは少しずつ、自分の好きなことや得意なことを見つけていきます。卒業生たちは、それぞれの目標に向かって、思い思いの進路へと進んでいくそうです。
進路も、生き方もひとつじゃない。「自分で決めた」と感じられる経験こそが、子どもたちにとって大きな自信につながっていく——そんな姿が、この学校にはあるように思えました。
加茂学園では、特別なプログラムや支援ではなく、“その子が選べるように関わる”ことを大事にしています。自分を大切にされてきた実感があるからこそ、自分の道を信じて進める——そのような成長が、卒業のころには見られるようになるのだそうです。
ここで紹介した加茂学園は、「移住先を選ぶうえで知っておいてもらいたい、南市原の子育てのひとつの風景」です。
学校は、暮らしの中心ではないかもしれません。けれど、子どもがどんなふうに過ごすのか、どんな大人に囲まれて育つのかは、地域の空気を知る手がかりになると思います。
加茂地域には、“オール加茂”という言葉が自然に息づくような、あたたかな関係のなかで子どもたちを育てる場所があります。
そのひとつが、加茂学園です。
「ここで育つ子なら、きっと大丈夫」。
そう感じていただける材料になればうれしいです。